此の世に《存在》するあらゆる《もの》の《存在形式》は、此の宇宙の摂理に従属してゐると看做しなしてしまひ、そして、それをして此の宇宙たる《吾》が《存在》する《存在形式》を、例へば「《吾存在》の法則」と名付ければ、必ずそれに呼応した「《他存在》の法則」が《存在》すると考へた方が《自然》だと思ひながら、その《自然》といふ言葉に《自然》と自嘲の嗤ひをその顔に浮かべてしまふ彼は、此の《吾》=《自然》以外の《他》=《自然》もまた《存在》するに違ひないと一人合点しては、
――ふっ、馬鹿めが!
と、即座に彼を罵る彼の《異形の吾》の半畳にも
――ふっふっふっ。
と、皮肉たっぷりに己に対してか《異形の吾》に対してか解からぬが、その顔に薄笑ひを浮かべては、
――しかし、《自然》は《吾》=《自然》以外の《他》=《自然》の出現を待ち望む故に、《吾存在》を呑み込む《吾存在》がその《吾》に拒絶反応を起こしてはこの耳障りな断末魔の如き《ざわめき》が《吾》の彼方此方にぽっかりと開いた《他》たる穴凹から発してゐるに違ひないのだ。
と、これまた一人合点することで、彼は彼の《存在》に辛うじて我慢出来るそんな切羽詰まったぎりぎりの《存在》の瀬戸際で弥次郎兵衛の如くあっちにゆらり、こっちにゆらりと揺れてゐる己の《存在形式》を悲哀を持って、しかし、心行くまで楽しんでゐるのであった。
…………
…………
――なあ、「《他存在》の法則」に従属する《他》=宇宙における《存在》もまた奇怪千万な《光》へと還元出来るのだらうか?
――つまり、それって《光》の《存在》が此の宇宙たる《吾》=宇宙と《他》=宇宙を辛うじて繋ぐ接着剤と看做せるか、といふことかね? 仮にさうだとすればそれはまた重力だとも、さもなくば時間だとも考へられるね?
――ああ、何でも構はぬが、《吾》が《存在》すれば、《他》が《存在》するのが必然ならばだ、此の宇宙が《存在》する以上、此の宇宙とは全く摂理が違ふ、つまり、「《他存在》の法則」に従属する《他》=宇宙は何としても《存在》してしまふのは、《もの》の道理だらう?
――ああ。
――そして、《吾》と《他》は何かしらの関係を持つのもまた《もの》の道理だらう?
――ああ、さうさ。此の世における《他》の《存在》がそもそも「《他存在》の法則」を暗示させるし、《他》が《存在》すれば《吾》と何かしらの関係を《他》も《吾》も持たざるを得ぬのが此の宇宙での道理だが、さて、しかし、仮令《他》=宇宙が《存在》してもだ、此の《吾》=宇宙と関係を持つかどうかは、とどのつまりは「《他存在》の法則」次第ぢゃないかね?
――それは《吾》と《他》が関係を持つのは徹頭徹尾、此の《吾》=宇宙での「《吾存在》の法則」による此の世の出来事は《他》=宇宙での「《他存在》の法則」に変換出来なければならず、つまり、換言すれば、《吾》=宇宙と《他》=宇宙の関係は関数で表わされねばならず、更にそれは最終的には光といふ奇怪千万な《存在形式》に還元されてしまはなければならぬといふことだね?
――ああ、さうさ。
――ならばだ、《吾》が「《吾存在》の法則」のみに終始すると《吾》=宇宙は未来永劫《他》=宇宙の《存在》を知らずにゐる可能性もあるといふことだね?
――さうさ。むしろその可能性の方が大きいのぢゃないかな。実際、此の世でも《吾》が未来永劫に亙って見知らぬ《他》は厳然と数多《存在》するぢゃないか。
――それはその通りに違ひないが、しかし、《吾》と未来永劫出会ふことなく、一見《吾》とは無関係に思へるその《他》の《存在》、換言すれば《存在》の因果律無くしては《吾》は決して此の世に出現出来ないとすれば、《吾》は必ず、それが如何なる《もの》にせよ、その《もの》たる《他》と何らかの関係を持ってしまふと考へられぬかね?
――へっ、つまり、此の宇宙も数多《存在》するであらう宇宙の一つに過ぎず、換言すれば、数多の宇宙が《存在》するMultiverseたる「大宇宙」のほんの一粒の砂粒程度の塵芥にも等しい局所の《存在》に過ぎぬと?
――へっへっへっ、その「大宇宙」もまた数多《存在》するってか――。
――つまり、《吾》と《他》とは共に自己増殖せずにはゐられぬFractal(フラクタル)な関係性にあると?
――多分だが、さうに違ひない。しかし、「《吾存在》の法則」と「《他存在》の法則」は関数の関係にはあるが、全く別の《もの》と想定した方が《自然》だぜ。
――何故かね?
――ふっ、唯、そんな気がするだけさ。
――そんな気がするだけ?
――さうさ。例へば私と《他人》は全く同じ種たる人間でありながら、《吾》にとっては超越した《存在》としてその《他人》を看做す外に、《吾》は一時も《他人》を承認出来ぬではないか! 而もだ、私が未来永劫見知らぬ未知の《他人》は数多《存在》するといふのも此の世の有様として厳然とした事実だぜ。
(七 終はり)
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