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積 緋露雪
虚妄の迷宮
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思索に耽る苦行の軌跡
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2009/05/04 05:29:46 プライベート♪
思索
幽閉、若しくは彷徨 三十一
――それは詰まる所、此の世に未だ《自存》した《存在》が出現してゐない《存在》の未熟さ、若しくは未完成さを指し示すのみの一つの徴表に過ぎぬ。

――つまり、世界から完全に独立した《存在》は未だ出現してゐないと? 

――その言葉を何回聞くのやら……。まあ、良い。多分、《存在》に開いた穴凹は此の世の位相を直に反映してゐる筈さ。

――つまり、《存在》は此の世を映す鏡だと? 

――違ふかね? 

――それは、断言すると、世界と《存在》は持ちつ持たれつの関係でしか此の世に出現出来ぬといふことかね? 

――ああ、さうさ。

――それじゃ、《新体》は泡沫の夢に過ぎぬといふ訳かね? 

――否、《他》が此の世に出現した以上、《新体》が出現する、つまり、この宇宙から完全に《自存》した《他》の宇宙が《新体》として必ず《外》に《存在》する筈さ。

――《外》? 

―― 《存在》に穴凹が開いてゐることから類推すると、《内》の中に《外》がある、つまり、陰陽魚太極図の目玉模様の、陰中の陽、陽中の陰、といふ《存在》の在り方が、《存在》の姿勢として折り目正しき在り方なのかもしれぬ。しかし、仮初にも《存在》は《内》と《外》といふやうに《存在》の在り方を単純化して物事を考へる癖が付いて仕舞ってゐるので、《外》と言ったまでさ。

――はっはっ。つまり、結局は自同律の問題じゃないか――。はっきり言ひ切ってしまへばいいじゃないか、「自同律は嘘っぱちだ」と! 

――……《吾》=《吾》は《吾》が《吾》と名指した《もの》の幻想に過ぎぬのは、この人間の身体一つとっても口から肛門まで《外》が《内》にあることからも自明極まりない筈だが、しかし、《吾》は如何しても《吾》=《吾》でありたい。それは何故か? 

――《吾》=《吾》でありたいだと? むしろ逆じゃないかね。《吾》は《吾》≠《吾》でありたいと? 

――さう看做したいならば、さう看做せばいいのさ。《吾》が《異形の吾》を抱へ込んだ《他=吾》である以上、《吾》が《吾》=《吾》だらうが、《吾》≠《吾》だらうが、結局は同じ事に過ぎないのだから。

――《吾》=《吾》と《吾》≠《吾》が同じだと? 

――ああ。《存在》は論理的に《吾》=《吾》であって而も《吾》≠《吾》であるといふ、ちぇっ、単純化するとその両面を持った《存在》の二重性を合理であるとしなければならぬ宿命にあるのさ。

――それは《一》=《一》であって《一》≠《一》である、論理的に「美しい」公理を打ち立てられない内は、如何あっても《吾》は自同律の底無しの穴に落下し続けるといふことかね? 

――さう、さういふことだ。漸くにして人類は量子論にまで至れたのだから、《一》=《一》であって《一》≠《一》である世界認識の仕方への飛躍は後一寸の処じゃないかね? 

――へっ、人類は既に大昔に陰陽魚太極図の考へに至っているのだから、《一》=《一》であって《一》≠《一》である思考法はお手の物の筈なのだが……。

――へっ、それ以前に人間は音声といふ波と画数を持った量子的なる文字で出来た言の葉を使ってゐるのだから、人間が言葉で物事を考へるのであれば《自然》に《一》=《一》且《一》≠《一》の思考法で世界を認識してゐるに違ひないのだ。

――しかし、実際はさうなってゐない。それは何故かね? 

――《一》=《一》に見蕩れてしまって其処から抜け出せなくなってしまった……。

――だから、それは何故かね? 

――ぷふぃ。詰まる所、時間を止めたいからさ。

――はて、それは如何いふ意味かね? 

――つまり、《一》=《一》、換言すれば《吾》=《吾》が永劫に成り立つ時が止まった架空の世界に戯れたかったからさ。

――だから、それは何故かね? 

――《存在》は本質的に《現実》を嫌悪する《もの》だからさ。

――《現実》を嫌悪する? それはまた如何して? 

――ちぇっ、《吾》が《吾》でなくなってしまふからに決まってをらうが! 

――《吾》が《吾》でなくなる? つまり、《吾》≠《吾》が《現実》の実相といふことだらう? 

――さうさ。時が移らふ《現実》において、《吾》は絶えず《吾》でない《吾》へと移らふことを強要される。

――それは《吾》=《他=吾》故にだらう? 

――さうさ。《現実》において《吾》は絶えず《現実》に置いて行かれる、つまり、《現在》に乗り遅れる。それでゐて《吾》は絶えず《現在》であることを強要される。哀しき事だがね……。

(三十一の篇終はり)

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Posted by おつまみ店主 (2009/05/08 10:21:18) 通報
http://seafish.shoku-ichi.jp/
続きが気になります。。
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Profile
積 緋露雪
性別男性
年齢45歳
誕生1964年2月25日
星座うお座
血液O型
身長172cm
体型痩身
職業物書き
地域関東
性格穏やか
趣味読書,クラシック音楽鑑賞
チャーム特になし
自己紹介
3度の飯より思索好き今もって独身
Parts

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